日記・繭の記憶/Cocoon Memories

アーティスト荒木珠奈の2018年夏予定の展覧会(インプリントまちだ@町田市国際版画美術館)にむけて、蚕を飼ったり、制作準備等の記録です。

そもそも、なぜ蚕?

そもそも…の話。

蚕を飼うことも、このブログも町田市国際版画美術館での展覧会「インプリントまちだ展」(2018年夏開催予定)に向けてのプロジェクトです。

 

なぜ、町田市での展覧会で蚕なのか…

4年連続企画のインプリントまちだ展。町田市に取材した新作をアーティストが展示します。そして2018年度のテーマは「記憶」です。学芸員さんから、いくつかあげて頂いた町田市の歴史の中から、私がすぐにピンときたのは「養蚕」でした。

幕末に横浜が開港してから、日本の養蚕、生糸輸出業が盛んになりました。1909年(明治42)から1976年(昭和51)までは、生糸の生産量や輸出量が世界一だったのです。

江戸時代から織物が盛んだった八王子。八王子に集まった生糸を、横浜に運ぶ道が「日本のシルクロード」と呼ばれ、町田市はそのちょうど真ん中あたりに位置します。絹の道を、人、物資、新しい文化が行き来することになり、町田市の繁栄のきっかけとなりました。

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画像「絹の道資料館」展示よりお借りしました

 個人的には、小学校で蚕を育てて、糸繰りをした体験もあります。

そして、アーティストになってからは、作品の素材として、自然由来の素材を使うことが多く、紙、蜜蝋、絹糸、植物繊維などを様々に加工して使ってきました。

自然由来の素材を使う理由は、作品のテーマに合っていることはもちろんですが、工業製品にない、風合い、しなやかさ等があるからです。あと、自分の身体感覚との近さもあります。

一時期、蜘蛛や蚕が、彼らの巣や繭を作るのに完璧で美しい素材を、自らの体から作り出せるという事に、嫉妬していました。”どうして私のお尻や口から糸が出ないのだろう。出せたら完璧なのに…”と。

という訳で、蚕、養蚕、記憶…をテーマに、新作の制作をしています。

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過去に絹糸を使ったインスタレーション 「Evoke under a circle」ギャラリーブリキ星 2003年 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い絹糸を黒で

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1頭の蚕の吐く糸の長さは、1300m~1500mです。絹糸の断面は三角形をしており、プリズムのように光を乱反射します。美しい光沢はここからきています。また衣服にした場合、夏に涼しく、冬に暖かいという特性もあります。

かいこが繭を作るのは、繭の中で蛹になり羽化までの皮が柔らかく動けない時期に、天敵や天候から守る役目もあります。そして絹糸は、紫外線も約90%カットするので、日傘やストールなどの紫外線予防製品にも向いています。

 

化学繊維にはない特性がたくさんある絹糸ですが、私が一番驚いたのは「カイコは繭糸を吐かないと、体内が過剰タンパク質になって死んでしまう」という事です。桑を食べて体内に溜め込んだタンパク質を、蛾になるためには吐き出さないといけないのです。

繭の役目は、弱い変態の時期に天敵や紫外線から身を守る目的が先なのか、タンパク質を排出する目的が先なのか…わかりませんが、よくできたものだと感心してしまいます。

 

最近は、銅版画を制作しています。銅版画といえば、白い紙に黒や他の色のインクで刷るのが一般的ですが、今は「白い絹糸を黒で」表現できないかと、試行錯誤しています。

 

⭐︎2018年夏「インプリントまちだ展2018」町田市立国際版画美術館にて開催予定⭐︎

 

 

 

かいこの卵、その後。

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「まゆるん」神奈川県横浜市にあるシルク博物館のキャラクター

 

かいこの卵ですが、うちでも10蛾ほどのメスが産みました。1蛾につき500個もの卵を産むらしいので(数えてはいない*)、約5000もの卵があることになるわけですが…

この卵たちは、そのままにしておくと来年の1月頃に孵化します。1月だと桑がなくて困るので、10℃の冷蔵庫に保存し、翌年の桑が出てきた頃に室内に出すと10日ほどで孵化するそうです。ただ2代目のかいこは、元気に育つ率は75%、3代目になると50%だそうです。

私の周りにも、うちからあげた友人の周りにも、来年は育ててみたいから卵を頂戴!と言ってる人たちがいます。それにしても、5000個の75%だとしても3750頭?…ファームになってしまうので、考えないといけません…

メス達は大半がまだ生きています。最初の蛾の羽化から約1ヶ月もたっているのに、何も食べずに静かに生きています。

 

*「かいこの豆博士」(小泉勝夫 著)によると卵を数える方法は、卵が産み付けられた紙をコピーして、コピーの方の卵に1個づつサインペンで記しをつけていくか、針で穴を開けていくと良いらしいです。なるほどー。

 ⭐︎2018年夏「インプリントまちだ展2018」町田市立国際版画美術館にて開催予定⭐︎

かいこ飼育日記(60日目)

10/22 '17(60日目)

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オスの蛾

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メスの蛾

 

10/22 '17(60日目)  卵から孵化したての状態で届いてから、60日目。オスの蛾たちが次々と死んでいきました。メスで死んだのはまだ1蛾。蚕もメスの方が長生きなんですね…

写真の右方のオスの羽がボロボロなのは、繭から出るときに空間が狭かったりで苦労して、まだ濡れて柔らかい羽がボロボロになったものです。

メスは産卵後も10日程たっていますが、卵を産んだその場でじっとしています。オスもメスも、蛾になってからは飲むことも食べることもしません。卵に次の命を託した後は、静かに死んでいきます。

産卵の様子を見ていて、1個産みつけたらすぐその隣に、おおむねきっちりと、卵を重ねずきれいに産むなぁ…と見ていました。しかし1蛾だけ、無秩序に、しかも重ねて産んだりするメスがいました。その卵を見ると、何故かぞわっとします。何かが上手くいかなかったのでしょう。

 

孵化から50日位の間に、幼虫〜繭〜蛹〜蛾〜卵と小さい虫の中の、ダイナミックな成長と変化を見せてくれた蚕たちに感謝です。死んだ蛾たちは、家の植木鉢か公園に埋めてあげようと思います。

⭐︎2018年夏「インプリントまちだ展2018」町田市立国際版画美術館にて開催予定⭐︎

 

 

かいこ飼育日記(48日目)

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画像に含まれている可能性があるもの:食べ物

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画像に含まれている可能性があるもの:植物
 
 
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画像に含まれている可能性があるもの:室内

 

 

 

10/9 '17(48日目)吐糸の観察のために、穴をあけてあった繭から蛾が羽化しました。他の繭からも続々と羽化し、すでに6蛾が産卵を始めています。
変化が大きいので、写真5枚です。

写真1)大きな穴がすでにあるのに、新たに穴を開けて出てきた。
写真2)繭の中にあった幼虫から脱皮した皮と、蛹から脱皮した皮。
写真3)羽化後、1時間くらい。羽は開いてきたところ。
写真4)交尾 上のお腹の大きなのがメス。交尾は数時間続く。
写真5)産卵 
写真6)産み付けられて1日目の卵。まさに卵色。翌日から茶色くなっていく。

⭐︎2018年夏「インプリントまちだ展2018」町田市立国際版画美術館にて開催予定⭐︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かいこ飼育日記(46日目)


蚕の羽化

 10/7 '17(46日目)金曜の朝に仕事場に到着したら、ちょうど頭が繭から出ている状態でした!すぐさま撮影。羽化するところが見れました。
羽化して数時間は、羽が濡れていて縮んでいます。

⭐︎2018年夏「インプリントまちだ展2018」町田市立国際版画美術館にて開催予定⭐︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
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かいこ飼育日記(41日目)

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10/4 '17(41日目)蛾が生まれました!お尻を見れば雌雄の区別はすぐつき、今回のはオスです。翌日になっても他のは生まれていないので、まだひとりだけで、じっとしています。赤茶色いものは、おしっこです。

写真の蛾のお尻の下に見えるのが、繭に開けた穴です。蛾が繭から出る時は、口からアルカリの液を出して繭殻をしめらせ、柔らかくして、頭部で押し開けててでてきます。必ず早朝に、朝の光を感じてでてくるんだそうです。こんなに大きな穴が開いていますが、糸は全く切られていないらしいです。(でも、穴が開くと糸繰りはできない)

 蛹の方は、色が濃くなり、日に日に蛾らしい体に変態しつつあります。ぼんやりとしていた細部のあしや羽の形がくっきりしてきています。複眼が出きてました!

⭐︎2018年夏「インプリントまちだ展2018」町田市立国際版画美術館にて開催予定⭐︎